2026年1月、意気揚々と開業届を出して個人事業主としての活動(副業)をスタートさせました。 しかし、1ヶ月目に待っていたのは、商談成立の喜び以上に重くのしかかる「CADライセンス高すぎ問題」と「サラリーマン副業の限界」という現実でした。 今回は、活動初月で見えた「収益シミュレーションの甘さ」と、そこから導き出した生存戦略について赤裸々に語ります。
2025年10月に独立を決意し、準備期間を経て2026年1月、ついに個人事業主として開業しました。現在は会社員を続けながら、土日や平日の隙間時間を使って活動しています。
初月は、前職時代にお世話になっていた「メーカー」と「大手専門商社」の2社と面談を行い、どちらも前向きな反応をいただけました。
「あれ、これ意外といけるんじゃないか?」
最初はそう思いました。しかし、具体的な契約や金額の話、そして実務の段取りを詰めていく中で、「会社員時代には見えていなかったコストとリスク」が浮き彫りになってきました。
👉これまでの活動記録はこちら
1社目メーカーとの商談
2社目商社との商談
衝撃の試算。iCADライセンスと「見えない固定費」
設備設計エンジニアにとっての「商売道具」であるCAD。会社員時代は何気なく使っていましたが、自分で買うとなると話は別です。 私がメインで使用している「iCAD」の場合、ざっくりとした試算は以下の通りです。
- 購入費: 約130万円
- 保守費: 約24万円 / 年
これを税法上の法定耐用年数である「5年」で償却計算すると…
- (130万円 ÷ 5年) = 26万円
- 26万円 + 保守費24万円 = 年間約50万円
ただ息をしているだけで、年間50万円の固定費が飛んでいきます。しかし、本当に恐ろしいのはここからです。
会社員年収800万 ≒ フリーランス売上1,000万(税別)の真実
「フリーランスになれば、売上が全部自分のものになる」
そう思っていた時期が私にもありました。しかし、会社員の手取りと同等の生活水準、そして「老後の安心」や「万が一のトラブル」への備えを維持しようとすると、計算式は残酷な現実を突きつけてきます。
ここでは「売上1,000万円(税別)」、つまり消費税は別途受け取り、納税分はそこから払う(=手元に1,000万円がまるまる残る)という有利な条件で計算してみます。それでも、会社員との差は歴然です。
| 項目 | 会社員(年収800万) | 個人事業主(売上1000万・税別) | 備考 |
| ① 社会保険料 | 約40万円 (健保+年金/半額会社負担) | 約105万円 (国保+国民年金/全額負担) | 国保は上限(約85万)に張り付きます。 扶養家族がいても負担は減りません。 |
| ② 将来の備え (退職金・上乗せ年金) | 厚生年金・退職金制度 でカバー済 | 約84万円 (iDeCo+小規模企業共済) | 厚生年金が消える分、月7万円(年84万) 積み立てないと老後破綻します。 |
| ③ リスクへの備え (賠償・休業補償) | 会社が守ってくれる 有給休暇あり | 約15〜20万円 (賠償責任保険+所得補償保険) | 設計ミスでの損害賠償や、病気で 働けない期間の収入保障(有給代わり)。 |
| ④ 税金 (所得・住民・事業税) | 約130万円 | 約230万円 (個人事業税含む) | 所得税・住民税に加え、 利益の5%(約35万)の「事業税」が発生。 |
| 経費(CAD等) | 0円(会社支給) | 約50万円 | CAD代、PC代、通信費など。 |
| 消費税 | 対象外 | パススルー | 受け取った消費税から納税するため相殺。 (※手元の1000万には影響なしと仮定) |
| 実質手取り額 | 約590万円 | 約510〜560万円 | 売上1000万(税別)でも、まだ足りない… |
※金額は概算シミュレーションであり、自治体や家族構成、経費率(簡易課税等)により変動します。
この表から見える「3つの壁」について解説します。
1. 「国保」と「事業税」の壁(表の①④)
税別計算にして消費税の持ち出しがなくなっても、その分「所得」が増えるため、今度は国民健康保険料が上限(年間約85万円〜)に達します。さらに、会社員にはない「個人事業税(利益の5%)」が約35万円ほど発生。この2つだけで年間120万円近い負担増です。
2. 「厚生年金」が消える壁(表の②)
表の見た目の支払額だけで「国民年金(年20万)の方が安い」と喜んではいけません。それは「将来もらえる年金が激減する」ことを意味します。 会社員並みの老後資金を確保するには、差額分として「iDeCo」や「小規模企業共済」で月額7万円(年間約84万円)を強制的に積み立てる必要があります。これを差し引いて考えないと、”今の手取り”は良くても”未来の手取り”がなくなります。
3. 「実質手取り」の逆転現象
これら(CAD代、国保激増、将来積立、事業税)をすべて差し引くと、売上1,000万円(税別)を上げても、自由に使えるお金(実質手取り)は500万円台中盤。なんと、年収800万円の会社員時代(手取り約590万円)を下回ってしまいます。
つまり、「現在の年収800万円と同等の暮らしと安心」を得るためには、売上ベースで「1,100〜1,200万円」を目指さないと割に合わない。
これが、電卓を叩いて導き出した現実的なラインでした。
時間単価5,000円でも「外注設計」は割に合わない?
これを労働時間で割り返してみます。 月に160時間(8時間×20日)稼働するとして、売上1,000万円を達成するには、月商約84万円が必要です。
- 84万円 ÷ 160時間 = 時給約5,250円
「時給5,000円の外注設計」 正直、今の市場相場で、ただの図面作成やモデリング業務にこれだけの単価を出してくれる企業はそう多くありません。 ここから見えた結論は一つ。「高額なCADを自腹で買って、外注設計屋になるのは修羅の道」だということです。
現在、クライアント(メーカー側)と「ライセンスを貸与してもらえないか」交渉を続けていますが、ここがクリアできない限り、安易な独立は危険だと痛感しました。
私は外注設計屋を目指しているわけではありませんが、計算してみると厳しい現実があります。
「一番やりたい仕事」が副業ではできないジレンマ
もう一つの壁は「スケジュール」です。 私が本当にやりたいこと、そして商社側も求めているのは、単なる図面描きではなく「コンサルティング(技術支援・仕様書作成)」です。
しかし、コンサル業務には「会議への同席」が必須です。 当然、クライアントの会議は「平日の日中」に行われます。
- クライアントの要望: 「メーカーとの技術仕様の打ち合わせに出て、リスクを潰してほしい」
- 私の現状: 「すみません、平日は本業があるので出られません…」
これが「副業開業」の限界です。 商社の方からは「一番いいのは、うちに転職して入社してもらうことなんだけど(笑)」とありがたいお言葉をいただきましたが、私の目標はあくまで「独立」。 組織に属さず生きていくためには、この「時間の壁」をどう乗り越えるかが課題です。
1ヶ月目の結論。「FUSION 360」と「教育」から攻める
「CADは高い」「平日は動けない」。 この八方塞がりな状況で出した、現時点での生存戦略は以下の2つです。
- 高額CADは買わない(今は): iCADの購入は見送り、安価な3D CAD(Fusion 360など)で構想資料やポンチ絵を作成するレベルに留める。または、ライセンス貸与可能な案件のみを受ける。
- 「教育」から実績を作る: 平日日中の拘束が厳しいコンサル案件の前に、スポット対応が可能な「若手教育」や「資料作成」から入り込む。これなら土日や平日夜間の作業でカバーできます。
まとめ:ネガティブな現実が見えてからが、本当のスタート
開業届を出した直後は「よし、やるぞ!」とポジティブな気持ち一色でしたが、1ヶ月動いてみて、「簡単じゃないな」というネガティブな側面がハッキリと見えてきました。
しかし、これは「副業期間中に気づけてよかった」ことです。 今ならまだ、失うものは何もありません。 いきなり会社を辞めていたら、今頃CAD代の請求書を見て青ざめていたでしょう。
「外注設計屋」ではなく、高単価な「技術コンサル」として完全独立するために。 今年は焦らず、泥臭く、副業という安全地帯から「実績」と「環境」を整えていこうと思います。


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